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L-1B ビザの「会社特有の専門能力」に対する定義の変化

L-1 ビザとは米国に支店・子会社・親会社がある米国外の企業の社員が、同種の仕事内容で米国において働く場合に適用され、「会社特有の専門能力」(Specialized Knowledge) を必要とされて米国で勤務する場合、L-1Bビザが適用されます。もともと、ここで言う「専門能力」とはビザスポンサー会社の商品、サービス、研究、技術、経営方針等について会社特有の知識を持つ個別的で専門的な知識を意味しているのですが、最近の米国移民局の審査傾向をみると、この「会社特有の専門能力」という定義がより狭く解釈され、米国進出を計画している外国企業によるL-1Bビザ取得がより困難になっているのが現状です。最近の調査によると、約66%ものL-1Bビザ申請に対して追加証拠 (RFE)が求められ、結果、ビザ取得までの審査期間が延びている現実があるとともに、追加証拠を求められた企業の三分の一以上の企業は最終的にL-1Bの申請が却下されているようです。

そこで、今回、このL-1Bの解釈について、Fogo de Chao v. DHS という裁判ケースを紹介します。これはFogo de Chaoというレストラン企業が最近、移民局を相手に起こした裁判で、最高裁判所により文化的に伝統的である、特有の環境下で身につけたものである、または人生経験から直接的に得られた「専門能力」はL-1Bにおける「専門能力」の定義の対象になると裁決しました。この裁判は、国際的に多くのチェーン店を持つブラジルステーキハウスのFogo de Chaoに対するもので、Fogo de Chao は米国に25店舗ものレストランを持ち、それぞれのレストランでは本場の味、例えば、ブラジル南部のリオグランデスル州出身のガウチョ風料理などを客に提供するため、熟練した経験豊富なシェフを雇っていることからもこの勝利は非常に大きいものでした。もちろんこの裁決は自動的に従業員にビザ取得の権利が与えられるということではない一方、文化教育や特有の環境で培った専門知識はL-1Bの「専門能力」の定義として考慮されるという結論を勝ち取ったという意味ではFogo de ChaoのみならずこれからL-1B申請を考えている企業にとっては非常に意味のある結果と言えるでしょう。

Fogo de Chao はそれまで200件以上ものchurrasqueiros と呼ばれるリオグランデスル州出身のシェフにビザを取得させることが出来ていましたが、2010年、アメリカ移民局のバーモントサービスセンターによりあるL−1Bケース申請が却下されてしまいました。移民局 によると、この申請におけるシェフの「専門能力」は移民法で言う「専門」としては適さないと判断を下したもので、その申請上のシェフのもつ能力や技術は特に珍しく、複雑でもなく、シェフであれば誰でもこの技術を習得できるものであると広く解釈しました。これに対し、Fogo de Chao側 は不服申し立てを行いましたが、最終的に不服審判所(Administrative Appeals Office)、更には連邦地方裁判所(Federal District Judge)もこの不服申し立てを認めませんでした。しかし、ワシントンD.C. の巡回裁判においては、このケースにおける文化的知識は「専門能力」の要素として見なされるべきであるとし、Fogo de Chaoを支持したことで、最終的に2対1却下が覆され、不服申し立てが認められる事になりました。

Fogo de Chao側は、アメリカにおいて飲食店が目指す「本場の食を提供するレストラン」になる為には、本場のシェフを置くことが不可欠である、主張しました。シェフはブラジルで直接料理のテクニックやスタイルを学んだ上、最低二年以上ブラジルにあるFogo de Chaoでシェフとして訓練されてきた熟練シェフであるという主張も主張が認められた要因となりました。 Fogoの一番の課題は、移民局がそれまで文化的、環境的影響で得た知識はL-1Bで言う専門的ではなく一般的な知識と考えていことから、シェフが文化的伝統で特有の環境で得た経験がどれだけ専門的な技術として影響を受け、どれほど重要なものなのかを移民局に論理的に立証する事でした。L-1Bビザ申請を行う際、法的解釈が厳しいためか多くの場合、企業は会社特有の知識があるかどうかを探ることから始め、申請の中でそれを明確に主張し説明する事でビザの取得が実現しています。会社特有の知識というのは、その会社の従業員しか得られない知識でもある上、会社内でも特に限られた特別な知識を持つ従業員にしかないものだと移民局は考えていることも、審査が厳しくなっている理由となっています。実際、移民局は専門能力について、一例として、「国際市場において会社の商品またその利用に関する専門知識、または会社の商品など製造プロセスや作業手順に関する高度な知識を持つ外国人であること」と定義づけています。

更に今回の勝利の背景について、Fogo de Chao側は、不服審判所は文化的知識が専門能力であるかどうかを判断できる権限がないと想定していたことに加え、地元のシェフを雇用し訓練させる経済的不自由さそのものが、彼らの持つ知識が専門的である事の具体的な根拠となる最たる理由になる、と主張した事も要因ともなったようです。

今回のこのケースは飲食業界だけではなく、他の業界にも当てはまる問題でもあります。特に日本の企業などは日本文化の影響が強いため、経営方針などが企業により特有とも言えます。そのため、会社特有の専門能力とその定義がどの従業員に当てはまってもおかしくないと言っても過言ではないでしょう。

移民局は長年に渡りL-1Bに関する法律を厳しく解釈し、多数のL-1Bビザ申請を却下してきましたが、Fogo de Chaoケースでは地方の従業員を雇うというプロセスが会社の経済的困難を招いているという絶対的論理が裁決を覆したのです。このケースから考えなければならない事は、この法的解釈がどれだけ広範囲で開放的に捉えることができるか、またビザ申請が却下された際に生まれる企業の経済的困難さの大きさをいかに論理的に分析できるかとも言えるでしょう。Fogo de Chao v. DHSの判決ケースを受け、今後審査側が文化の重要性や特殊性、企業の経済的困難、更には得られた専門能力について幅広く認識し解釈することが期待されます。私個人的にも弊社クライアントのケースに対し応用できる新しいアイデアが得られたと強く実感しています。

SW法律相談所

ブランケットプログラムを通して取得した L-1ビザスタンプの更新について

現在、在外のアメリカ大使館、領事館では、ブランケットプラグラムを通して発行されるL-1ビザスタンプは5年間有効なものです。しかしながら、その一方で、移民法には新規L-1申請における最大就労可能は3年(アメリカにおける会社設立1年以上の会社)と定められていることから、満3年を超えての4年目以降の引き続きの同ステータスによる雇用及びアメリカ滞在延長のためには何らかの形での更新申請が必要な状況です。

そのような状況の中、2014年4月2日の在東京アメリカ大使館による通達によれば、現在5年間有効なL-1ビザスタンプのもと、最大3年の雇用期間後、2年以上のビザスタンプの有効期間を残した状況であっても、アメリカ大使館を通しての申請を通して、ビザスタンプの更新申請が可能となるとの見解を示しました。

移民関税執行局(CBP)は未だに明確な見解を示してはいませんが、今回のアメリカ大使館の見解を受け、この3年を超えての雇用、滞在を可能にするためには、現在ではこのビザスタンプそのものの在外アメリカ大使館、領事館を通しての更新に加え、アメリカ移民局を通しブランケットプラグラムではない個人ベースでのL-1ビザ延長申請を行う2通りの更新方法をとることになるでしょう。

以上のことからも、実際に5年のビザスタンプが発行されたとしても、やはり3年後の更新が何らかの形で必要になることを意味します。むしろ、5年間有効なビザスタンプが発行されていることで、新規にLビザスタンプの認可を受けた従業員が先5年間は一切の更新、延長申請は不要と誤解しやすい状況になってしまっている事実もありますので、引き続き、3年後(又はアメリカ大使館への申請フォーム(I-129S)に記載した雇用リクエスト期間)の更新申請が必要であることを強く認識することはとても大切です。

今後この更新方法について、政府によるより明確な法的説明とその実施方法の見解発表を期待したいと思います。

デビッド シンデル
SW法律事務所

速報:L-1Bビザの高い却下率

米国移民局は、つい先日、2012-2013年度のL-1B申請に関する受領数、認可数、質問状発行数、却下数について発表しました。L-1ビザとは特定の条件のもと、米国に支店・子会社・親会社がある米国外の企業の社員が、同種の仕事内容で米国にて働く場合に適用され、L-1AとL-1Bの2種類に分かれます。L-1AがExecutive及びManager用のビザであるのに対し、L-1BはSpecialized knowledge(会社特有の専門能力)を持つ専門家に対して発行されます。

L-1B申請に関する受領数、認可数、却下数、質問状発行数一覧

年度

サービスセンター

受領数

認可数

却下数

質問状

2012

カリフォルニア

6,784

5,109

75.3%

2,583

38.1%

3,636

53.6%

2012

バーモント

11,956

9,071

75.9%

3,485

29.1%

5,052

42.3%

2012年合計

 

18,740

14,180

75.7%

6,068

32.4%

8,688

46.4%

2013

カリフォルニア

6,642

4,110

61.9%

2,661

40.1%

3,446

51.9%

2013

バーモント

11,081

7,834

70.7%

3,581

32.3%

4,917

44.4%

2013年合計

 

17,723

11,944

67.4%

6,242

35.2%

8,363

47.2% 

総申請数の約50%近くに質問状が発行、35%が最終的に却下

一覧表を見てもお分かりのようにL-1Bビザそのものが非常に取得困難なビザであることを伺わせるのですが、最終的な却下率は2012年から2013年度にかけて約3%増えています。更に2012年度以来、カリフォルニアサービスセンターにおける却下割合がバーモントサービスセンターに比べて顕著であることも見受けられます。更に見ると、両年度とも実に申請の半分近くに対して質問状が発行されていることが分かります。質問状とは申請した書類の内容に対して移民局が追加で情報、資料を要求してくるもので、その返答に更なる負担がかかります。ここで特に興味深いのが質問状発行と却下数の関係で、移民局による却下は通常、質問状発行を通して結論付けられることから、実に質問状を受けた場合の却下率は2012年の約70%から2013年度は75%近くにまで上がっているとも言えるでしょう。

我が社の統計では申請の約95%が認可

弊社では毎年多くのL-1B申請を行っているのですが、残念ながら100%認可という結果ではありません。ケースの種類にもよりますが、質問状が届く割合は移民局の実数である50%近くまでは至らずに済んでいるものの多くのケースで質問状がくると実感しています。また最終的な却下率は約5%程といったところでしょう。移民局による厳しい審査状況は弊社でも実感しており、お客様特有の商品、サービスビザ取得者の専門能力、アメリカでの専門的ポジション、職務内容について、弊社ではお客様からできる限り多くの詳しい情報を収集し、事実に基づいて申請書に正当に反映させるべく多大な時間を使います。弊社で作成する移民局へのサポートレターは一般に20ページ以上で、質問状が来た場合の返答書のレターに関してはそれ以上である場合がほとんどです。ただ、弊社のケースに限らず、会社商品やサービスの特有性やビザ取得者の専門性、アメリカでの専門的活動内容をどれだけ詳細に説明したとしても移民局はその内容に納得せず質問状を発行し、更にその質問状への返答が移民局の理解に及ばなければ却下するという現実があるのです。

この3件に1件が却下になるという現実を受け、各企業はL-1Bでの従業員の派遣についてはビザが認可されない可能性が比較的高い確率で起こり得ることを認識する必要があります。そのことからも各企業とも派遣社員をどのように選任すべきか見直しが必要になるでしょう。またビザ申請にあたっては、その申請準備作業時間だけではなく、質問状がくる可能性があることなどからも派遣予定時期まで十分余裕を持つことも重要でしょう。一方で、もし会社がLブランケットプログラムを持っていれば、移民局を通さない申請であることからも比較的認可の割合は高いように感じられます。

ブランケット L-1ビザとは

規定以上の社員を米国に転勤させている会社はブランケットL-1(総括的申請)ビザの許可申請を行うことができます。会社としてブランケット申請が認められると交替社員が個人でLビザの申請を米国移民局に対して行う必要はなく、手続きも簡略化され申請手続にかかる時間も短縮されるなど、会社にとってはメリットが多いです。ブランケット申請をする資格としては、スポンサーとなる米国の会社が少なくとも1年以上ビジネスを行っており、且つ3ヶ所以上の関係会社をもつ場合で、過去12ヶ月の間に少なくとも10人のL-1ビザ社員を米国に転勤させているか、もしくは米国内にて関連会社合算で2,500万ドル以上の売上がある、もしくは米国内で1,000人以上の従業員を雇用している場合となります。

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