I. はじめに
2025年6月4日、米国のドナルド・J・トランプ大統領は、19カ国の国民に対し入国に関する広範な制限する「大統領宣言」(以下「本大統領令」)を発令しました。2025年6月9日午前0時1分より、本措置は、移民法及び国籍法(以下「INA」または「本法」という)第212条(f)項及び第215条(a)項に基づき付与された権限に基づき、施行されるものとされます。この宣言は、移民ビザと非移民ビザの両方の分類に適用される、完全な入国禁止措置と一部入国禁止措置の枠組みを定めています。ただし、厳格に定義された例外事項に限り、この枠組みが適用されない場合もあります。
II. 法的根拠
本大統領令は、以下のINAの2つの条項に基づいています。
- 第212(f)条:米国の国益にかなうと判断された場合、外国人の入国を一時停止または制限する広範な裁量権を大統領に与える。
- 第215(a)条:国家安全保障や公共の安全を守るために必要な場合、大統領はビザの発給やその他の入国書類の発行を制限する権限が認められます。
トランプ政権によるこれらの権限行使は、同様の法的根拠に基づいて発令された過去の渡航禁止措置と同じものです。
III. 制限の範囲
A. 全面入国・ビザ発給禁止対象国
本大統領令の公布と同時に、以下の12カ国の国民に対して、米国への入国およびビザ発給の全面禁止が適用されます。
- アフガニスタン
- ミャンマー(ビルマ)
- チャド
- コンゴ(コンゴ共和国)
- 赤道ギニア
- エリトリア
- ハイチ
- イラン
- リビア
- ソマリア
- スーダン
- イエメン
範囲: これらの国のパスポート所持者は、いかなるビザの種類や旅行目的に関わらず、いかなる状況下でも米国への入国が禁止されます。これには、合法的な永住権を取得する移民ビザを申請する個人を含めほか、短期滞在、就労、留学、または家族の再会を目的とした非移民ビザを申請する個人も含まれます。制限は、入国待機中の渡航者にも適用され、合法的な移住手続きの場合でも対象となります。
B. 部分制限対象国
次の7カ国については、一部制限が適用されます。
- ブルンジ
- キューバ
- ラオス
- シエラレオネ
- トーゴ
- トルクメニスタン
- ベネズエラ
範囲:
- 移民ビザ:すべての申請者に対して禁止。
- 非移民ビザ:B-1/B-2(商用・観光)、F・M(学生)、J(交流訪問)ビザに対して限定的に制限。
- 免除対象:H-1B(専門職)・L-1(企業内転勤)・K-1(婚約者)など他の非移民ビザ申請者は、明確に制限の対象外とされています。
備考: 制限の対象とならないカテゴリーの申請は引き続き受理されますが、領事官は法的権限の範囲内で必要に応じてビザの有効期限短縮を行うことができます。
IV. 適用範囲および制限事項
- 将来的な適用(Prospective Application)
本規定は、2025年6月9日の施行日以降に発行されたビザ及び米国外にいる個人に対してのみ適用されます。 - 遡及的効力の否定(Non-Retroactivity)
2025年6月9日の施行日より前に発行されたビザは、この布告を理由に失効することはありません。2025年6月9日より前に有効なビザを所持し、同時点で米国内に滞在している者は、そのビザの有効性を引き続き保持することが出来ます。 - 米国内にいる者への適用(Inside the United States)
施行日前に米国内に合法的に滞在し、有効なビザを所持する者については、本規定の影響を受けず、そのビザは引き続き有効です。
V. 例外規定(Section 4(b))
本大統領令は、特定の個人カテゴリーを保護するための例外規定を明示しており、以下の者はビザ制限の対象外とされる。
- 永住者(LPR)
- 難民、庇護申請者、拷問防止条約(CAT)に基づき、国外退去の差し止めまたは保護を受けている者
- 外交官及びNATO代表者
- 入国禁止措置の対象国以外の国籍を有する二重国籍者
- 米国市民の配偶者、未成年子女、21歳以上の親族(証明書類の提出を要す)
- 海外で養子縁組された子ども
- アフガニスタン特別移民ビザ(SIV)保有者及び米国政府職員のSIV所持者
- イランにおいて迫害を受けている民族・宗教的少数派
- 主要な国際スポーツイベント(例:オリンピック、ワールドカップ等)に参加するアスリート、コーチ、スタッフ及びその直系親族
- 米国務長官により、その入国が国家の利益に合致すると判断された者