2025年9月19日、トランプ大統領は、新たに10万ドルの料金を支払わなければH-1Bビザステータスでの入国または再入国を希望する者の入国を制限する大統領令(Proclamation)を発表しました。「特定の非移民労働者の入国制限」(Restriction on Entry of Certain Nonimmigrant Workers)と題された本宣言の発効日時は2025年9月21日(日曜日)午前0時1分 (米国東部夏時間)で、1年間の有効期間となる予定です。
詳細は明らかになっていない部分もありますが、現時点での主なポイントと考慮事項は以下の通りです。
- 本声明は2025年9月21日午前0時1分(米国東部夏時間)に発効し、12ヶ月間有効ですが、延長される可能性があります。
- 対象は、移民法INA 212(f)に基づき、現在米国外にいるH-1B労働者の米国入国です。
- 米国内での滞在延長(雇用主変更、ステータス変更、修正申請を含む)については、明確な規定がなく、特に指示がない限り免除と考えられます。
- 次回のH-1B抽選(2026年3月予定)から30日以内に、国務長官、法務長官、労働長官、国土安全保障長官は、米国の利益に資するかについて共同で大統領に勧告を行います。
- 国務長官は、承認済みH-1B申請の受益者で、開始日が2026年10月1日より前の者によるBビザの不正利用を防ぐためのガイダンスを発行します(おそらく入国後のステータス変更による料金回避を防止するため)。
- 労働長官は、現行の賃金水準の見直しや、高技能・高所得非移民の受け入れ優先化に向けた規則制定を開始するものとします。
例外:個人、企業、または業界に対して例外が認められる場合があります。ただし、DHS(国土安全保障省)が、それが米国の国益にかなうものであり、かつ米国の安全保障や福祉を脅かさない場と判断した場合に限ります。ただし、この声明文は、この新たな手数料や渡航制限が、米国国外にいる上限枠免除のH-1B労働者 (H-1B CAP Exempt employers) への適用について明確にされていません。
なお、この新たな指令に対して直ちに裁判所での異議申し立てが予想され、また大統領にこの措置を実行する権限が議会の承認なくしてあるのかについても疑問が残っています。
特にまだ多くの未解決の問題があります。例えば、OPT(Optional Practical Training)の対象者で抽選に選ばれた米国内在住者はどうなるのか、渡米してビザスタンプを取得する場合には適用されるのか、あるいはステータス延長申請をし、帰国して新規スタンプ取得を行った場合にはどうなるのかなどです。
トランプ大統領の広報官のカロライン・リーヴィット氏はX(旧Twitter)上で、既存のH-1Bビザ保持者で米国外にいる者は対象外と述べています。H-1Bビザ保持者は、通常通り出国と再入国が可能です。この新法は新規ビザ発給にのみ適用され、既存のビザの更新や現在のビザ保持者には関係しないとされています。また、次の抽選サイクルから適用開始とされています。ただ、これはX上のコメントであるため、段階では確証がなく、詳細はまだ確認できていません。仮にこの措置が適用されれば、免除対象企業を除き、H-1Bビザは事実上廃止される可能性があります。今後の続報にご注意ください。
【追加緊急速報】
2025年9月20日、USCISは以下の通達を発表しました。
2025年9月19日、トランプ大統領はH-1B非移民ビザの体系的な悪用を対処すべく「特定の非移民労働者の入国制限」に関する大統領令を発表しました。移民及び国籍法(INA)の第212(f)及び第215(a)条(8 U.S.C. 1182(f)及び1185(a))に基づき、専門職に従事する資格を持つ非移民として米国に入国することが制限されます。ただし、申請書に10万ドルの支払いが添付あるいは補足されている場合は除外されます。本指針は、2025年9月21日午前0時1分(米国東部時間)以降に提出されるH-1B就労ビザに基づく申請に適用され、これから提出される申請に対してのみ将来的に適用されます。なお、発令は未提出の申請にのみ適用され、布告の発行日より前に提出された請願書の受益者である者、現在承認済みの請願書の受益者である者、または有効なH-1Bビザを保有している者には影響しません。米国移民局の担当官は、本指針に沿った判断を確実に行う必要があります。この布告は、現在ビザを所有している者が米国へ渡航する、または米国から出国することに影響はありません。
従って、2025年9月21日以降に提出される新規のH-1B申請に影響を及ぼす可能性が高いと考えられます。ただし、リーヴィット氏の発言はUSCISの見解と一部食い違っており、USCISは米国内在住者や延長申請者について明確に区分していません。
アメリカ移民弁護士協会(AILA)のジェフ・ジョセフ会長は、「トランプ政権下でもアメリカが重要な労働力不足を埋め、経済を前進させ、新しい雇用を創出するために才能ある外国人専門人材を必要とする点は変わっていません。しかし一夜にして、この行政は高技能H-1Bプログラムを『お金で席を買う制度』に変質させました。H-1B労働者に対し高額な10万ドルの料金を課すことにより、教育者や非営利団体、研究者、地方の医師、宗教指導者など、多くの専門家がこの行政のエリート主義的なH-1Bプログラム改変に耐えられず事実上締め出されたと言えます。議会と協力し、重要な高度技能労働者プログラムを強化・再活性化する努力の代わりに、大統領は自らの権限を逸脱した提案を行いました。これではイノベーションが損なわれ、大手企業も中小企業も必要な人材にアクセスできなくなる恐れがあります。H-1Bプログラムは米国人労働者の置き換えを目的としたものではなく、機会を拡大し、新産業の構築し、米国の国際競争力の維持を目的としたものです。パンデミック後の経済課題に直面する中で、イノベーターや雇用創造者を締め出すのは全く理にかなっていません。」と述べています。
アメリカ移民弁護士協会(AILA)のエグゼクティブ・ディレクター、ベンジャミン・ジョンソン氏は以下のように述べています。
「これらの発表は、議会によって明確に制定されたH-1Bプログラムや雇用ベースのグリーンカードの目的や規定、料金、そして変更手続きの枠組みを、まるで新たに書き換えるかのようです。このような措置は裁判所で認められることはないでしょう。しかしながら、訴訟には時間を要します。その間に、我々は不要な損害を自らに課してしまいます。これにより、世界のトップクラスの才能ある人材に対して、アメリカが扉を閉ざしているというメッセージを送っていることになります。これらの人々は、科学者、医師、エンジニア、起業家などであり、企業を築き、研究の拡大、コミュニティの強化に貢献しています。多くの調査結果が示すように、H-1B労働者はアメリカ人の雇用を奪うのではなく、むしろ新たな雇用の創出を支援し、米国の労働力を補完しながら経済成長を促進し、イノベーションを拡大し、新たな雇用分野を開拓しています。この才能を締め出すことは、アメリカの競争力を失うことにつながります。結果として、雇用が失われ、イノベーションは鈍化し、ビジネス、医療、テクノロジーといった分野での競争優位性を失うことになるでしょう。」