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DUIをはじめとする非移民ビザの取り消しについて

1952年に制定された移民国籍法とその改正によると、国務長官は如何なる時でもビザを撤回し、取り消すことのできる権利を保持しています。また国務省(通称 DOS:The State Department)は、飲酒運転及び麻薬の影響下での運転(通称 DUI: Driving Under Influence)においても、その有罪判決の有無に関わらずビザの取り消しを行使しております。なお、国務省はDUIを犯した米国滞在の非移民ビザ保持者のビザ(査証)も取り消す権利も保持しています。

非移民ビザの取り消しの過程について

違反の度合いにより国務省の異なる2つの部署において非移民ビザの取り消し処理が行使されます。

(I) DUIに関しては、アメリカ大使館、領事館が非移民ビザ保持者のビザ査証の失効手続きを行います。

(II) DUI以外については、国務省の本社にある査証審査署(Visa Office of Screening, Analysis and Coordination)が非移民ビザ保持者のビザの失効手続きを行います。

なお、国務省による非移民ビザの失効が正式に有効になるのは、通常は、アメリカ滞在者に対しては、処罰を受けた非移民ビザ保持者が米国を出た後になります。

非移民ビザ失効による影響とは

多くの場合、国務省はビザの失効状を”送付可能な場合”においてのみ発行します。しかし、非移民ビザ失効状を受け取らなくてもビザの失効は有効になります。DUIケースにおいては、通常、アメリカ大使館、領事館がDS‐160フォーム(オンラインのビザ申請書)に記載されているEメールアドレスにビザ失効状を送るため、DS‐160フォーム上の情報が最新かつ有効であり続けていることが大変重要です(場合によっては米国領事館が直接該当者に電話することもあります)。なお、ビザ失効状をEメールで受け取った場合は、失効状の確認のため、関係するアメリカ大使館、領事館に直接問い合わせることも可能です。

ただ注意すべきことは、ビザの失効は処罰を受けた後の最初のアメリカ出国後が絶対ではないということです。ケースによっては、国務省による非移民ビザ失効により、アメリカ国内にて移民局に対して行う就労ビザの雇用者変更申請や延長申請が却下されたケースもあります。更に、場合によっては、非移民ビザの失効により、国外退去の処分を受けたケースもあります。なお、現在、国務省と国土安全保障省(移民局)はこのような例外的なケースを無くし、米国出国後のみビザの失効が有効になるよう、その制限について議論しています。

米国移民局による新方針:質問状発行無しの申請審査について

2018年7月13日、USCIS(米国移民局)は新しい方針を発表しました。この新指針によると、2018年9月11日より、米国移民局の審査官が適切な場合において、最初の申請後に移民局が発行する追加情報や追加資料を要求する質問状 (通称 REF:Request for Evidence)や却下予定通知書(通称 NOID:Notice of Intent to Deny)を発行せずに申請書を却下出来る権限を持つようになります。

この新指針は2013年6月3日に発行された「質問状と却下予定通知の発行命令」(”Request for Evidence and Notices if Intent to Deny”)と矛盾します。というのも、この指針は米国移民局が申請者が追加資料を提出してもその申請が許可されることは”不可能”である場合を除き、追加情報や追加資料を要求する却下予定通知又は質問状を発行すべきであるというもので、この”不可能”という定義により、審査官は質問状や却下予定通知書の発行無しに申請を却下出来る権限を制限されていました。

質問状とは

質問状とは米国移民局が申請者に対して発行する要請書で、提出されている書類の内容では申請を許可するには不十分ではあるものの、許可が下りる見込みがあるケースにおいて、申請者に追加書類・証拠の提出を要求します。

却下予定通知書とは

却下予定通知書とは米国移民局が申請者に対して発行する書類で、申請が却下されることを事前通達するためのものです。ただ、それを覆すだけの追加書類や情報の提出により許可される可能性も残されています。質問状と却下予定通知書の違いは、質問状は申請が許可されるか見通しが立たない場合に発行されるのに対して、却下予定通知書は却下される可能性がある場合に発行されます。なお、質問状には追加で必要とする情報資料が通知書に記載されている一方、却下予定通知書にはケースを却下理由をリスト化するなどして記載されています。

いつ新指針が実施されるのか

2018年9月11日より実施予定。

新指針の対象範囲

新指針の対象範囲は、新指針が実施される2018年9月11日以降に受理される全ての移民局申請が対象となりますが、若年期に入国した不法移民の若者に対して強制退去処分を猶予する米国の移民政策(通称DACA: Deferred Action for Childhood Arrivals) に関連する申請は対象外となります。なお、今回の新指針により、カリフォルニアとニューヨークの司法機関によって発行された差し止め命令には影響がありますがDACA審査に関連する質問状と却下予定通知書の方針や施行には影響しないようです。

質問状と却下予定通知書の発行が無くなることで何が却下されるようになるのか?

以前同様、米国移民局は、法的根拠が無いなど申請が許可されることは”不可能”である場合において、引き続き、質問状や却下予定通知書の発行無しに法定却下の通知を発行する予定です。法的根拠のない申請例は無数に考えられますが、分かりやすい例として、例えば家族を通した永住権申請やハードシップ申請(家族が離れて暮らすことが困難であることを理由に本来は認可できないような履歴(犯罪歴など)を免除要求する申請)など、夫婦や親戚間に対して証拠を示すのですが、そもそもその親戚関係を証明できない、また親戚関係にあってもその親戚関係は申請カテゴリーに存在しない親戚関係であるなどです。

2018年9月11日より施行開始となる新指針により、米国移民局は全権力を行使して、証拠書類の提出が不十分である申請に対しても質問状又は却下予定通知書を発行することなく却下状を発行出来るようになります。例として以下の申請が対象となります。

  • 免除申請(本来はビザの認可の妨げとなるような履歴(犯罪歴など)を免除要求する申請)に対し、十分とは言えない証拠書類しか提出されていない権利放棄の申請
  • 申請時に、規定上、提出すべき書類として求められている法定書類や証拠などの必要書類が提出されていない場合 ( 例: 家族ベースの永住権申請(アメリカ国内での永住権保持者へのステイタス変更申請)で、 ビザスポンサーの財務能力を証明(収入や財産にて証明)する供述書(I-864フォーム)の提出が必要であるにも関わらず、提出されていない場合など)

この新指針で重要なこと

以前の方針では、ケースによっては、米国移民局審査官は最初の質問状への回答を受け、引き続き不足がある状況においては追加で2回目の質問状を発行することもありましたが、この新指針により、1つの質問状にまとめて全ての追加書類および情報を要請することが勧められています。質問状を受けた申請者は要請された全ての書類や情報を返答書類としてまとめて一度に提出しなければなりません。もし一部の書類のみ返答提出された場合は、移民局の申請審査の判断に影響を及ぼし、追加要請した必要書類や情報が提出されなかったことを理由に申請を却下する可能性があるでしょう。

米国移民局のエル・フランシス・シスナ指揮官はこの方針の変更により、軽薄で審査の対象に値しないケースの数を減量し、移民局の業務の効率性を高め、移民法に基づき公正な審査をすることで業務の改善に繋がるであろうと主張しています。

今回の新指針に関して質問がある場合はお気軽に弊社までご連絡下さい。今後も新情報を随時発信していきます。

米国移民局の新指針によるHとLビザ保持者への厳しい影響

米国移民局による新指針、移民裁判所への出頭命令(通称NTA:Notices to Appear)の発行により、移民局は、米国移民局関税執行局(通称ICE: Immigration and Customs Enforcement) との協議無しに該当外国人に対して移民裁判所への出頭命令を発行するよう任務の範囲が拡大されると見られています。移民局の審査官は今後、例えば、ビザ申請が却下され、その時点で国外退去可能なケースにおいては外国人に移民裁判所への出頭命令を発行し国外退去させることになります。

この新指針によるH-1B申請者への影響はありますか?

はい、あります。H-1B申請者はH-1B延長申請の審査中は仮にその期限を超えていても、その申請が正当なものであれば、少なくとも最終結果が出るまでの最大240日間は、米国に滞在可能で、スポンサー企業の元で就労を続けることは可能です。なお、現在アメリカ移民局での特急審査サービスを使わない通常ケースのH-1B審査には約半年(180日)はかかっており、仮に有効期限のギリギリに延長申請書類を提出したとして、移民局審査が更に2ヶ月(60日)追加でかかるとすれば、240日以上の審査期間がかかることを意味しますので、最終結果が出るまでの継続的な雇用ができなくなることを意味します。更に、最終的にH-1B 延長申請が却下された場合、H-1B申請者(またその家族)は申請が却下された日付から違法で米国に滞在していると見なされ、移民局により移民裁判機関への出頭命令が発行され国外退去を求められることが想定されます。

その発行以降の国外退去プロセスの期間、H-1B申請者は米国で合法的に働く権利を失うと同時に、出頭まではアメリカ国外への出国も認められず、正当に出頭しない場合は、アメリカへの再入国が先5年は禁止されることになります。

この新指針によるL-1A申請者への影響はありますか?

はい、あります。L-1Aビザ保持者の管理者又はマネージャーとしての永住権の申請を行っている外国人はこの新指針による影響を受けるであろうと見られています。というのも、L-1A申請者が永住権を申請する際、彼らの雇用主は永住権のスポンサーとして申請を行なうことになります。申請審査に掛かる時間はとても長く、場合によっては何十ヶ月も待たなくてはならない可能性もあります。H-1B申請者と同様に、申請結果が出るまでの間にL-1Aのステータスが切れる場合、又は移民局が最終的に申請を却下した場合、L-1A申請者とその家族は申請が却下された日付から違法で米国に滞在していると見なされ、移民局により移民裁判機関への出頭命令が発行され国外退去を求められることになります。

なお、永住権申請をしていない場合でも、上記H-1Bの延長申請と同様にL-1AやL-1Bの延長申請についても期限を超えての審査結果が却下となった場合も上記と同様の制裁を受けることが想定されます。

さらに詳しい詳細はこちらのリンクをクリックして下さい。https://bit.ly/2NjCc7o

米国移民局による不正防止審査の実施

2018年6月28日、移民局のオンブズマン・ジュリー・カークナー氏は米国移民局が複数の申請タイプの審査に遅れが生じていることを認める一方で、不正申請を防止する審査の強化に関する最新の定例報告書を議会に公表しました。

なお、オンブズマン氏の事務所は独立した企業体で議会によって創立され、その創立目的は、移民申請に関する方針の変更や申請者の援助を促進することです。

不正防止審査の現地調査の強化について

2017年、移民法上の不正・偽証申請および国家安全保障・公安に関わる問題を調査する移民局の組織FDNS(Fraud Detection and National Security Directorate)は、“リスクに基づく” 不正防止へ事業の中心を移行しました。つまり、FDNSは、Targeted Site Visit and Verification Programと呼ばれる新しい現地調査と検証プログラムの施行のもと、不正リスクの高い企業や雇用主の現地調査(監査)の施行を以前より更に強化するということです。アメリカ移民局の公式ウェブサイトによると、不正リスクが高いと見なされる対象は以下が含まれます。

  • 総社員数のうち、アメリカ人労働者に対してH-1Bを保持する従業員の割合が多い企業(いわゆるH-1B-dependent employer)による申請
  • 基本的な事業情報が市販データから認証出来ない企業による申請
  • H-1Bによる雇用の場所が第三者機関であるなどオフサイト雇用に基づいた申請

上記に当てはまる企業は審査の対象としてFDNSによるランダムの抜き打ち審査(監査)の対象となる可能性があるでしょう。現地調査の対象となるビザの種類にはH-1B、L-1AとL-1Bが含まれます。

なお、この不正防止審査の強化に対応するため、FDNSは2012年の職員数756名から2018年現在で1548名と職員数が2倍以上に増加したとのことです。

最後に、この定例報告書によると、不正防止審査の効率性を図るため、米国移民局はケース管理を完全デジタル化する必要性があるとも記されています。

米国移民局、多くのビザ申請において申請審査の遅延を認める

2018年6月28日、移民局のオンブズマン・ジュリー・カークナー氏は米国移民局が不正防止の審査を強化すると同時に、複数の申請書の審査に遅れが生じていることを認める最新の定例報告書を議会に公表しました。

なお、オンブズマン氏の事務所は独立した企業体で議会によって創立され、その創立目的は、移民申請に関する方針の変更や申請者の援助を促進することです。

審査の遅延について

今回発表の定例報告書には米国移民局の“効率性”を改善するために数々の具体的な計画が盛り込まれておりますが、米国移民局による申請審査は改善されないであろうという見解を認めています。

米国移民局の申請審査の遅延の原因の一つに新しい電子システム管理が挙げられています。以前は紙媒体システムを利用してそれぞれのケースを管理していましたが、主に電子システムを利用するようになったのはつい最近のことです。目的は申請審査の遅れを取り戻すためでしたが、逆にこの新しい管理システム(ELIS)の技術的な問題により更に遅延の被害を大きくすることとなっています。

この問題により特に外国人の身元調査にも影響を及ぼしています。そのため、申請審査に要する時間がより長くなっているのです。

さらに、米国移民局は申請審査の遅延の理由についてはほとんど発表していません。そのため、オンブズマン氏は米国移民局がこの情報を申請者に開示し始めることで自信を取り戻してもらえるよう勧めています。

この遅延による影響は全てのビザのカテゴリーに当てはまりますが、その中でも一番影響を及ぼすのはI-765の就労許可の申請です。というのも、この就労許可を得るために亡命したということを理由にする申請者が増加するのではないかという声が上がっているためです。その他のビザカテゴリーにおいては、審査の遅延等、特にI-485(永住権の申請)とN-400(米国市民権の申請)申請に対して悪影響が大きく出てくると思われます。

米国移民局によるNotices to Appear (NTA)に関する新指針

2018年6月28日、米国移民局(USCIS)はNotices to Appear (NTA:移民裁判所への出頭命令)の発行に関する新しい指針を発表しました。この新指針によって、今後米国移民局がNTAを発行する対象の範囲が以前より広がります。そのため、国外退去可能なケースで、詐欺行為、犯罪行為、又は、ビザ申請など却下されたにも関わらず米国に違法滞在している証拠がある場合の外国人もNTA発行の対象となります。

以前の方針では、米国移民関税執行局(通称ICE:U.S. Immigration and Customs Enforcement)がその役割を担い、米国移民局はビザ申請審査がその役割の中心でした。それが今回の方針転換を受け、米国移民局にもその機能及び権限が持たされた形となります。

米国に合法的に就労又は居住している外国人でも、彼らの滞在延長申請や転職申請が米国移民局による指針の変更によって思いがけず却下されてしまった場合もNTAの発行を受けての国外退去手続きをしなければならないようになります。なお、NTAの発行を受けた外国人は、その内容が、個人の意思に反しているとしても米国を出国することが出来なくなり、移民裁判所に行くことを余儀なくされてしまいます。同様に、最近のUSCIS の規定変更により、滞在を許可するステータスが無効になってしまった留学生もNTA発行の対象となります。なお、2018年5月31日の時点で既に70万以上ものケースが移民裁判機関にて滞りが出ている状況ですので、この新指針は移民法業界また外国人にとって更に大きな影響を与えることになります。

この新指針によって最も気になる点の一つは非移民ビザ(H-1B , L-1 ビザなど)の延長申請等、元のビザの期限を過ぎたにも関わらず申請は引き続き審査中の状態で、アメリカにて合法的に待機しながらも結果的にビザ申請が却下になってしまうケースで、今回のケースでは、その状況もNTA発行の対象となるようです。従って、非移民ビザ等延長申請の必要な方は、元のビザの期限を迎える前に延長申請の最終結果が出ている状況が望ましいと考えられます。

国土安全保障省、オバマ政権による国際起業家に関する規則の取りやめを提案

国土安全保障は、米国への人道的また公的な利益を踏まえ、米国入国を最終的に許可できる裁量権を持っています。2016年のオバマ政権の最終月、国土安全保障省は卓越した企業家を導入する目的で臨時入国許可又は、一時入国に関する規則を改正しました。その企業家達によって経済成長と革新を促進する公的な利益を生み出すことがこの規則改正の狙いで、International Entrepreneurship Rule(国際起業家に関する規則)という名で知られるようになりました。外国国籍者がこの規則で米国に入国する際に必要となる条件は以下の通りです。

  • 企業の少なくとも10%の所有株式を保持していることが最低条件で、加えて
    • 資格を満たす”投資家から少なくとも$250,000 の資金を有する、又は
    • 資格を満たす”政府からの少なくとも$100,000の賞金や助成金を有する(州および連邦の賞金や助成金も受け入れられています)

2017年7月、トランプ政権下、国土安全保障省は国際起業家に関する規則の実施を2018年の3月に遅らせるという規則を掲げました。一方で、2017年12月には、連邦裁判所がこの遅延を無効とした上、米国移民局は国際起業家の入国を許可する申請の受付を開始いたしました。

そのような中、2018年5月25日、国土安全保障省は国際起業家に関する規則を終了すると提案しました。規則の内容自体が広範囲にわたり、米国人労働者や米国人投資家による支援の妨げとなる上、そもそも国際起業家を招き入れる手段には不適切であるということが理由として挙げられています。

なお、国土安全保障省は2018年6月28日付又はそれ以前に受信した、国際起業家に関する規則を終了するという提案に対する諭評を受け入れてはいるようです。

このような状況もあり、多くの外国人米国入国希望者は、米国入国の手段として変動的で不安定な国際起業家に関する規則を利用するより、投資家ビザのE-2ビザや投資家永住権のEB-5ビザ(米国移民局が指定する地域内のプロジェクトに投資をすることで永住権を最短約2年程度で取得できる可能のある申請。その他、様々な条件あり)による申請により期待を寄せています。E-2投資家ビザは米国でのビジネスにおいて相当額の米国外からの資本の投入が必要となり、定期的なビザの更新が必要です。EB-5ビザの永住権保持者は米国での事業において少なくとも10名の米国人労働者を雇い、候補者には少なくとも$1,000,000(場合によっては$500,000)の投資をすること等が必要条件となっています。

2017年 移民法総括

今回は2017年を総括するような記事でまとめたいと思います。皆さんの多くが実感していることかと思いますが、移民法を取り扱う立場として、2017年はある意味、激動の1年と言っても過言ではない年でした。

とりわけ、トランプ政権の誕生を受け、良い意味でも、悪い意味でも様々に影響を受けた方が多くいらっしゃったことでしょう。細かくは数え切れないほどありますが、(1)大統領指令の発行による影響(”Buy American and Hire American” 2017年4月18日発行)、(2)非移民ビザ申請審査の厳格化(厳しい審査状況、質問状の多発、審査の長期化、延長申請も新規申請同様に全ての詳細な審査の実施、等々)、(3)スポンサー企業への突然の監査訪問実施の増加(H-1B, L-1A, L-1Bビザなど)が、身近な主な事項として挙げられます。

具体的には特定の国籍者また関係者の特定のステイタスによるアメリカ入国禁止令の継続的発行(イラン、リビア、ソマリア、イエメンなど)、DACA (deferred Action for Childfood Arival – 若年の不法移民に対する国外強制退去の猶予処分)の廃止(約80万人の若者に影響)、H-1Bビザ申請に対する移民局による質問状の多発(H-1Bビザは高度技術者や高級ポジションのみに利用されるべきとの新方針による影響)、雇用ベースのアメリカ国内での永住権申請者に対する面接実施の復活、等が記憶としての新しいところです。

更に、トランプ政権で掲げる移民法改革優先事項案として、主なものに(1)永住権申請方法の変更(家族ベースの永住権発行数を減らし、雇用ベースの永住権申請をポイント制へ変更)、(2)アメリカの全雇用主へのE-Verifyシステムの実施義務化及びその実施不履行に対する罰則の増加、(3)抽選によるアメリカ永住権発行の廃止、(4)不法滞在者への罰則の厳格化、(5)非移民ビザ審査、発行、履行に対する厳格化(H-1B, L-1A, L-1Bビザ等)等々があり、2018年以降、これらについて何らかの動きが出てくるものと思われます。

このような状況の中、ビザで人材を採用する企業、またビザを取得する本人等全ての方々に伝えたいこととして、今後は、柔軟なアメリカへの人材派遣計画(既に採用している人材の雇用延長も含む)、専門家を通した最新のアメリカ移民法情報の入手、戦略的なビザ申請書類の作成(アメリカ移民局、アメリカ大使館・領事館向け)、ビザ認可後も政府による会社への突然の査察訪問に備えた十分な準備(申請書の内容と実務が一致していること。必要に応じて移民局への修正申請の必要あり)、等これまで以上に重要視し、実行していくべきでしょう。

具体的には、例えば、もう数ヶ月(2018年4月1日)もすれば、新規のH-1B申請受付が開始されます。準備期間を含めると、既に人事計画が進められていてもおかしくない時期でもあろうかと思います。これまでとは異なる姿勢での取り組みが必要となってきます。暗い話が前面に出てきましたが、今後、明るい話が出てくることも期待したいところです。

更に厳格化する移民局申請

移民局を始め、政府のビザの申請審査は年々厳しくなっている現状はこれまでも繰り返しお伝えの通りですが、2017年10月23日に国土安全保障省より発表されたPolicy Guidanceによると、今後、ビザの延長申請においても審査が更に厳しくなることを示すものとなりました。

このPolicy Guidanceは審査官など移民局職員全員への通達で、非移民ビザの延長申請の審査も最初のビザの審査と同レベルでの審査を行うよう通達しているものです。こちら、日本人の多くも保持するL-1やH-1B等も含むほぼ全ての非移民ビザが対象となっております。

トランプ新政権の掲げる移民法改革のもと、移民局職員はその最前線に立っており、移民局ディレクターのFrancis Cissna氏も今回の通達はアメリカ市民の労働局を守ることにつながる方向性を明確にしているものだという見解を示しています。

今回の発表を受け、移民局審査官は、延長申請書を入念に審査することを指示されており、仮に延長申請の内容において、職務内容などの雇用条件につき最初の申請書の内容から変更がない場合においても最初の申請審査と同様のレベルでの審査が必要で、最終結果は同じになるにしても、補足資料も含めて、提出された全ての申請書類の入念な確認審査が必要となったというわけです。

つい最近まで適用されていた移民局ポリシーでは、延長申請書を審査する審査官は、最初の申請書に明らかな間違いや詐欺等がない場合は別として、鍵となる内容に変更がない限りは、最初の申請書を認可した審査官の審査結果を尊重すべきとなっていました。

このことから、延長申請も安心できない状況となり、今後は、質問状発行の多発、また審査の更なる長期化、更には却下の可能性も増えることが予想されます。

また移民局申請に限らず、Eビザなどアメリカ大使館での申請もトランプ新政権の掲げるアメリカ人労働を守ることを伺わせる審査結果も見かけるようになりました。

今後は、延長申請も含め、政府に対するビザ申請は、その申請のタイミングに合わせ、より戦略的で、かつ時間に余裕を持っての申請書作りが求められ、更には最悪の事態に備え、会社もビザの結果に対して柔軟に対応出来る人事体制をとっておくことが重要となることでしょう。

移民局によるビザスポンサー会社への突然の監査訪問の現状

アメリカ移民局は2014年、公式にL-1Aビザ(主にマネジャー、エグゼクティブの駐在)及びR-1(宗教)ビザを持ってアメリカにて就労している外国人に対し、その雇用実態の確認のため、それらビザ保持者のビザスポンサー会社への監査を行う指針を発表しました。こちらH-1Bビザに加えての監査対象ビザの広がりを具体的に示したわけですが、その一方で、ここ最近、L-1ビザのもう一つのL-1B(専門職)に対しても、その後の公式な発表なく会社への突然の監査訪問が実施されているとの報告があります。実際、移民局はこの状況に対するコメントは発表してはおりません。アメリカ移民局は、このL-1Bへの新しい監査対象の広がりについて、とりわけウェブサイトにおいてL-1とだけ明記し、L-1AとL-1Bを区別はしていないことからも、それを根拠に実施しているのではないかとも考えます。

一方で、興味深いことに、アメリカ移民局ウェブサイトには監査は移民局による認可後に行われるとも書いてある一方で、現実態としてL-1Bビザも含め、アメリカ移民局への延長申請を行い、その結果が出る前の審査段階において、監査を受けたとの企業からの報告も上がってきています。これは、新しい傾向です。

このような状況の中、アメリカ弁護士協会は、今後L-1B保持者を対象とした監査が更に増えるとの見解を示しており、更に、これまでは移民局が外注した監査官による監査だったものが、移民局審査官が直接監査を行う実態も示しています。

ここ最近では、ある監査にて特定の対象者に対して一つでも詐欺的な要素が発覚すれば、同社の他のビザ保持者にも監査の範囲が広がることになっているようです。

この傾向は最近顕著に見られるもので、これら監査のL-1B保持者への広がりがトランプ政権の指令が背景あるか否かははっきりしませんが、現状、L-1Bどころか、新政権では全ての関心が非移民ビザ全種類を対象に向けられ始めています。

そこで、特に会社の人事担当、更にはビザ保持者本人が心得ておくべきことは、会社の規模に関わらず、常に突然の監査の対象となっていること、また監査官が来た際に備えて、申請書の内容を常に認識しておくことが大事です。また、H-1B、R-1、L-1A/L-1Bビザに限らず非移民ビザを持つ全従業員が対象の可能性となることを心得ておく方が良いでしょう。

職務内容、就労場所、給与額など、もちろん事実に沿って申請書が作成されているかと思いますが、その内容に矛盾なく雇用されているか確認することです。もし、申請書の内容と異なる変更がある場合は、その度合いに応じて、移民局への修正申請が必要でしょう。一旦、認可されたビザでも監査官が不服と唱えれば、いつでもビザ取り消しの対象となりますので、今後に備えて、注意が必要です。