米国の企業および投資移民を取り巻く環境は、この一世代で最も深刻な転換期を迎えています。筆者は先日サンディエゴで開催された全米移民弁護士協会(AILA)の年次カンファレンスに参加してきましたが、現場の運用の実態で明確なのは、「少し前まで通用していた手法が、今はもう即時却下につながる可能性がある」ということです。
永住権を追求する個人投資家であれ、海外の労働力を管理する企業の雇用主であれ、時代を先取りするためには、事後対応的な戦略から、先手を取る鉄壁のコンプライアンス(法令順守)へと移行する必要があります。今回は4部に分けて、移民制度における主な変化を詳しく解説します。
第一部:EB-5投資家ビザプログラムの新たな現実
EB-5改革・誠実性法(RIA)は投資家ビザへの道を活性化させましたが、同時に非常に厳格な取り締まり体制も導入され、今年のカンファレンスでも深く議論されました。現在のEB-5プログラムにおいては、特に「一部投資(分割払い)」や「ローンを原資とする資金」に関して、極めて高い正確性が求められます。
分割払いプラン
米国移民局(USCIS)は、対象雇用地域(TEA)の標準的な最低投資額である80万ドルのうち、20万ドルや40万ドルといった一部の資金のみを出資した段階で、投資家が最初の「フォームI-526E」を申請することを認めています。これは、投資家が「積極的に投資のプロセスを進めている」状態にあるべきだという規則に基づいて許可されているものです。しかし、この手法は非常に戦略的である一方で、極めて重大な法的リスクおよびプロジェクト上のリスクをもたらします。
メリットについて
- 早期の優先日(Priority Date)の確保: 申請を行うことで、ビザ発給を待つ列の順位(優先日)が確定します。インドや中国などのバックログ(発給遅延)を抱える国の投資家や、すぐに枠が埋まってしまう「セットアサイド(特別枠)」カテゴリ(例:地方プロジェクト)を狙う投資家にとって、全額を現金化できるまで待つことは、タイムラインが数年も遅れる原因になりかねません。
- 同時申請(ステータスの調整)が可能に: すでに有効な非移民ビザ(H-1B、F-1、L-1など)で米国に滞在している場合、一部投資での申請によって、直ちにフォームI-485(ステータス変更申請)を同時提出することができます。これにより、5年間の就労許可証(EAD)と事前入国許可(渡航許可証)が取得でき、雇い主によるスポンサーシップから解放されます。
- 資金面の柔軟性: 一部投資を行うことで、不動産の売却、ストックオプションの権利確定を待つ時間、または厳しい外国為替管理をクリアして資金を移動させるための猶予期間(通常3〜12ヶ月)が生まれ、焦って不利な財務判断を下す必要がなくなります。
- CSPAによる年齢超過からの保護: I-526Eを申請することで、子どもの身分保護法(CSPA)に基づき同行家族である子どもの年齢が凍結されます。これにより、21歳を迎えようとしている子どもがグリーンカードの取得資格を失う(エイジアウトする)のを防ぐことができます。
⚠️注意点: 最初の申請時に一部の金額のみを証明すればよいわけではありません。USCISは申請初日から、残りの資金がどこから調達されるのかを、明確かつ法的拘束力があり、取り消し不可能なかたちで立証することを求めています。
デメリットについて
- RFE(追加情報請求)や即時却下の危険性: USCISは分割払いプランを厳格に審査します。後からキャンセルできる不確実な契約だとみなされたり、後から残りの資金源を変更したりした場合、広範囲におよぶ追加情報請求(RFE)を受ける可能性が高くなります。USCISが申請書類を審査する前に投資を完了できない場合、請願は却下され、優先日と申請手数料が無駄になります。
- プロジェクトリスクの高まり: 資金ギャップが生じるため、すべてのリージョナルセンターが分割払いを受け入れているわけではありません。分割払いを認めているプロジェクトであっても、もし多くの投資家がその後の分割払いを期日通りに行わなかった場合、建設がストップしてしまう可能性があります。建設がストップすれば、義務づけられている「10人の米国人フルタイム雇用の創出」ができなくなり、永久グリーンカードの取得が危うくなります。
- 融通の利かないタイムライン: USCISの審査スピードが突然加速した場合(特に優先される地方プロジェクトで時折見られます)、分割払いの期間が終了する前に審査の順番がまわってくる可能性があります。投資の全額完了は、審査の前までに完了させておく必要があります。
結論:分割払いプランを利用すべきか?
利用に向いているケース
・総資本への明確かつ書類証明が可能なルートをすでに確保しているものの、短期的な流動性の問題や通貨送金の遅れに直面している投資家
・緊急の期限(子どもの年齢超過が迫っている、あるいは9月30日のプログラム期限など)に直面している投資家。
利用を避けるべきケース
・翌年中に残りの資金を「見つける」または「稼ぐ」ことを想定している投資家
・高まる法的審査のリスクを受け入れたくない投資家
こういうケースにおいては、可能であれば、最初から投資全額と包括的な資金調達元(ソース・オブ・ファンズ)を提示することが常に最も安全なアプローチです。
ローンを原資とする資本と無担保ローン(Zhangルール)
画期的な判例となった「Zhang対USCIS」の裁判判決を受け、コロンビア特別区巡回区控訴裁判所は、ローンの手取金は根本的に「現金」であるとの判決を下しました。その結果、EB-5のローンは、EB-5資本として認められるために、厳密には投資家自身の個人資産を担保にする必要はなくなりました。
落とし穴:資金追跡ルールの厳格化
個人資産の担保は不要になったものの、審査を回避できるわけではありません。実際、RIA(誠実法)の下でUSCISは、代わりに貸し手(融資元)を徹底的に審査するという方法で対応しました。個人、友人、あるいは自身が所有する法人から無担保ローンを取得する場合、その組織・個人が貸し出す現金をどのように合法的に取得したかを完全に文書化し、追跡証明しなければなりません。
7年間の税務申告書提出ルール
現在のRIA(誠実法)基準の下では、透明性が最も重要視されます。投資家は、資産や組織の形態(個人、法人、またはパートナーシップなど)の構造に応じて、過去7年分の税務申告書を提出することが厳格に義務付けられています。投資資金が個人間のローンや法人からの送金に紐づいている場合、貸付主(融資元)も厳格な財務監査をクリアするために、7年分の財務履歴を提出しなければなりません。
ローン契約書における必須条項について
・明確な目的: ローンで得た資金が、具体的にEB-5投資の目的で提供されていることが明記されていなければなりません。
・明確な返済条件: 具体的な返済期日(満期日)が含まれている必要があります。無期限、あるいは「いつでも返済可能」といったタイムラインは、実質的な贈与とみなされ、却下の原因となります。
- 市場レートの利息(Market-Rate Interest): 関係のない第三者や法人からの無利子(金利0%)のローンは、偽装取引の兆候とみなされます。金利は商業的に妥当な水準でなければなりません。
- 絶対的な個人責任: 投資家本人が、その債務に対して個人的かつ第一の責任を負っていなければなりません。
- 「アット・リスク」条項(リスクにさらされていること): ローンの担保として、EB-5プロジェクトの資産や、プロジェクト内における投資家の株式を使用することはできません。
弊所では、戦略的なアドバイスとサポートを提供しておりますので、ご相談はいつでもお気軽にお問い合わせください。
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この記事を書いた人

弁護士
David Sindell
デビッド・シンデル
ニューヨーク州およびニュージャージー州弁護士。東京にて外国法事務弁護士(外弁)として登録し、米国移民法を専門に31年以上の実務経験を有する。これまでに3万件を超える移民関連案件を手がけ、企業・個人を問わず米国での就労・生活を幅広く支援してきた。
現在は東京を拠点に、英語・日本語・フランス語・タイ語を用いたきめ細かなサポートと、執筆・講演活動を通じた情報発信を行っている。