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政策の解説と申請者のための戦略
5月21日、米国移民局(USCIS)は政策方針(PM)PM-602-0199を発表し、フォームI-485によるAOSステータス変更申請(アメリカ国内での永住権保持者へのステータス変更申請)の審査基準に大きな転換をもたらしました。
この方針は、米国内で永住権を申請するAOSについて、「本来は米国外の米国領事館で移民ビザを取得すべき人に認められる例外的な救済措置」と位置付けています。つまり、従来のように米国内で完了する手続き要件が大幅に厳格化され、永住権を取得しようとする外国人は原則として母国の大使館での手続きが必要となることを示唆しています。この新しい方針は、長年にわたり確立されてきた米国移民局の実務運用および制度の発展から大きく逸脱するものといえます。
1952年に米国議会が移民国籍法(INA)第245条(a)を制定して以来、AOSステータス変更制度が本質的に裁量的な制度であることに変わりはありません。しかしこれまで、議会、旧移民帰化局(INS)、および国土安全保障省(DHS)のいずれも、深刻なマイナス要素や例外的な状況がない限り、永住権を取得しようとする外国人が、原則として米国外へ出国しなければならないという立場を取ったことはありませんでした。
米国移民局(USCIS)の新たな考え方
この運用方針の転換を正当化するため、米国移民局は、このより厳格な姿勢こそが、国内でのステータス変更を制限しようとした議会本来の意図を反映していると主張しています。
米国移民局側の主張によれば、大半の非移民ビザカテゴリーには厳格な「非移民の意図(米国滞在後の帰国意図)」または明確な米国からの出国義務が課されているため、米国内でのステータス変更はあくまで「原則に対する例外」と扱われるべきだとしてます。
また、当方針は二重意図(デュアル・インテント)を認めるビザカテゴリーの存在自体には言及しているものの、脚注20において「二重の意図を持つ非移民カテゴリーで適法なステータスを維持していることだけでは、それ単体で有利な裁量権の行使を正当化するには不十分である」と明記し、その保護枠組みを明確に縮小させています。これは、H-1BやL-1の申請者もまた、本方針の動向に深く留意する必要があることを意味します。
「総合事情判断(Totality of the Circumstances)」の導入
USCISは現在、審査官に対して広範な「総合的な事情(totality of the circumstances)」分析を適用するよう指示しています。審査官は、申請者に関するあらゆる有利な事情と不利な事情を総合的に評価し、
- 裁量権を有利に行使すべきか
- 申請者を米国外の米国領事館で移民ビザを申請する「通常ルート」に回すべきか
を判断することになります。
本方針では、I-485申請を一律に却下するよう指示しているわけではないと説明されています。しかし、今後は地域ごとの追加方針によって、特定の申請者層やビザカテゴリーがさらに厳格な裁量審査の対象となる可能性が示唆されています。
裁量的カテゴリー vs 非裁量的カテゴリー
この新たな運用方針は、INA第245条に基づくステータス変更申請であり、かつ申請者が米国外で移民ビザを取得できる制度上の経路を有している場合に適用されます。
一方で、他の法律条項に基づいて永住権へ変更するカテゴリーや、法律上「非裁量的(non-discretionary)」と位置付けられているカテゴリーは対象外とされています。
USCIS政策マニュアル第7巻第10章では、これらのカテゴリーが整理されています。
裁量的規定(高いハードルが課される対象)
家族ベース移民(Family-Based Immigration)
雇用ベース移民(Employment-Based Immigration)
抽選永住権(Diversity Visa)
その他の一般的なI-485申請
非裁量的規定(本政策方針の適用除外)
• 1997年ニカラグア調整および中央アメリカ救済法(NACARA)
• 難民のステータス調整
• 1998年ハイチ難民移民公平法(HRIFA)
• リベリア難民移民公平法(LRIF)
「総合的な事情」テスト
実務現場からの報告によると、USCISの審査官はすでにこの政策を迅速に運用し始めており、
- 詳細な追加証拠要求(Request for Evidence:RFE)
- 「なぜ領事館手続きを利用せず、米国内でステータス変更を行ったのか」
といった点について、厳しい質問を行っています。
この方針の厳格な基準の下では、「マイナス要因がないというだけでは資格を満たすのに不十分」ということが明確に示されています。したがって、申請者は「例外的または極めて優れた人道・経済的事情(unusual or even outstanding equities)」を提示しなければなりません。
加重審査の対象となるマイナス要因
米国移民局は、以下の事情をマイナス要因とするとしています:
- 移民法違反、または過去の在留資格条件への不遵守
- USCISまたは政府機関との手続きにおける詐欺、不実表示、重要事実の虚偽申告
- 非移民資格またはパロール(仮入国許可)の本来の目的に反する行為
- 入国またはパロールの目的が終了した後、速やかに米国を離れなかったこと
- 領事館手続き(Consular Processing)が利用可能なカテゴリーでステータス変更を申請したこと
- 通常の領事館手続きを回避しようとする意図(いわゆる「事前の移民意思(preconceived intent)」)が認められること
優れたプラス要因による立証
この厳格な審査を乗り越えるために、申請者は、以下に焦点を当てた十分なプラス価値を組み立て、立証する必要があります:
家族としてのつながり
- 米国市民または永住者(LPR)である配偶者や子どもとの強い家族関係
- 申請者が米国を離れた場合に家族が被る具体的な困難(ハードシップ)を示す資料
- 家族の分離による経済的・精神的・医療上の影響に関する証拠
地域社会および経済への定着
- 長期間にわたる合法的な米国滞在歴
- 継続的かつ安定した就労実績
- 適切な納税記録
- 地域活動や慈善活動への参加実績
- 雇用主や地域関係者からの推薦状・支援書簡
国益および人格面の評価
- 米国の国益に資する活動や事情
- 専門性の高い技能や知識
- 雇用主によるスポンサーシップなど、米国経済への直接的な貢献
- 犯罪歴がないことや良好な人格を示す資料
実務上のアドバイスと対策
裁量権による却下リスクの高まりと、それに伴う強制送還手続きの可能性を踏まえ、移民弁護士は以下の点を対応手順に組み込むことを検討します:
すでにAOSを申請している場合の申請中の書類の見直しととステータスの維持
申請者は、I-485(AOS)が審査中であることによって、その間の「合法的滞在期間(period of authorized stay)」にあるとしても、そのこと自体が強制送還手続から保護されるわけではないことを理解する必要があります。
I-485が最終的に却下され、かつ有効な非移民資格を維持していない場合には、強制送還手続に付される可能性があります。
米国内でのステータス変更 vs 母国での領事館手続き
米国内でのステータス変更の利点として、
・AOS審査期間中の米国内での就労許可取得
・領事館審査における「不服申立て不可の原則(Consular Non-Reviewability Doctrine)」の回避
があります。
しかし、弁護士は申請者ごとの状況を踏まえ、
「母国の領事館での手続きの方がより安定かつ現実的な選択肢ではないか」
という点について率直に説明することになります。
また、I-485の提出する場合には、RFE(追加証拠要求)を待つのではなく、最初の申請時から積極的かつ包括的な「裁量権行使を支持する証拠パッケージ(Discretionary Equity Package)」を提出することを推奨するでしょう。このパッケージには、
- なぜ申請が承認されるべきなのか
- どのような有利事情が存在するのか
を詳細に示す資料を含めるべきです。
I-130およびI-140申請の戦略
大幅な事務処理の遅延を回避するため、米国内でのAOSを予定している場合であっても、最初のI-130またはI-140の申請時には、
「米国外の米国領事館で移民ビザを取得する手続き(領事館手続)」
の選択を検討するとよいでしょう(フォームの中にどちらかを選択する質問があります)。現行の制度では、仮に領事館手続きを選択している場合においても、後に米国内でのI-485の提出は可能です。USCISは承認済み請願書を自動的に米国国務省のナショナルビザセンター(NVC)から取り寄せるため、のちに申請方法を切り替えることをリクエストするためのForm I-824は不要です。
しかし、I-130またはI-140の申請時にフォーム上で、ステータス変更(AOS)を選択した場合、その後、
- 本人の意思によって
- またはI-485の却下によって
領事館手続へ切り替えなければならなくなった場合には、Form I-824の提出が必要となり、処理期間が数か月から数年延びる可能性があります。
注記:領事館手続きを選択した場合は、申請が無効になるのを防ぐため、少なくとも年に1回はNVC(ナショナルビザセンター)へ連絡する必要があります。
繰り返しますが、可能であればI-130およびI-140では領事館手続きを選択しておく方が有利だと弁護士はアドバイスするでしょう。
厳しい面接への備え
申請者は面接に備えて十分な準備を行う必要があります。現在、審査官は以下のような質問を積極的に行なっています:
- なぜ母国の領事館ではなく、米国内でのステータス変更を選択したのですか?
- 母国へ帰国できない身体的、または法的な理由はありますか?
- 非移民ステータスの期限が切れた後も米国内に留まったのはなぜですか?
- 現在、母国にどのような繋がり(家族や資産など)を維持していますか?
訴訟への備えと判例による反論
今回の新政策方針は、限定的な司法判断のみを根拠としているため、法的な争いの余地があると考えられています。USCISが引用している移民上訴委員会(BIA)や連邦控訴裁の判例の多くは、
・AOSの手続きそのものに関係のない事案である
・通常の申請者には到底当てはまらない重大な違反行為が存在した事案である
という問題があります。
実務家は、意見書や法的主張の中で、既存の有利な先例を積極的に引用し、この政策方針の立場に反論すべきです。
関連する法的リスク
本方針の施行は、進行中のいくつかの制度変更と重なることで、特定の申請者層にさらなるリスクをもたらす可能性があります:
子供の年齢保護法(CSPA)に関するリスク
現行の指針では、I-485が審査中であれば、21歳未満の子どものCSPA年齢は維持されます。
しかし、裁量によってI-485が却下されると、この保護も失われます。
もし申請が却下され、さらに強制送還手続の中で再申請できない場合には、子どもが年齢超過(age out)となり、扶養家族としての永住権受益者の資格を完全に失う可能性があります。
在留期間(D/S:Duration of Status)の廃止
F、J、Iビザ保持者に
適用されているDuration of Status(D/S)制度を廃止する最終規則が公布後60日で施行される予定とされています。
これにより、
- プログラム終了後すぐに不法滞在日数(Unlawful Presence)が発生する
- 最大4年間まで積算される
ことになります。その結果、
- Form I-539による延長申請への依存が高まり
- AOS審査中に与えられる「合法的な滞在期間」に関するリスクが増大し
- 将来のI-485申請が裁量審査の影響をより強く受ける
ことになると指摘されています。
不法滞在ペナルティ(ULP Bars)とアドバンス・パロール(事前入国許可書)
I-485の審査中は不法滞在(ULP)のカウントが一時停止(tolled)されるものの、無許可就労に関する問題は停止されません。そのため、実務家は、以下の入国禁止規定への影響を慎重に検討する必要が出てくるでしょう。
- 3年間の入国禁止
- 10年間の入国禁止
- 永久的な入国禁止
また、判例 Matter of Arrabally and Yerrabally(25 I&N Dec. 771 (BIA 2012))によれば、Advance Paroleによる短期間の出国は、3年・10年バーを発動させる「出国(departure)」には該当しません。
しかし、米国国務省はこの判例を厳格に解釈しているため、I-485が却下されて領事館手続へ移行する場合には、
- Form I-601(免除申請)
- Form I-212(再入国許可申請)
が必要になる可能性があるとも言われています。
そのため、I-485却下のリスクがある案件では、これらの免除申請の準備も早い段階から進めるべきだと弁護士が主張することもあるでしょう。
I-485却下後に利用可能な救済手段
I-485の却下処分に対しては行政上の不服申し立て(Appeal)が認められないため、不利な決定が下された場合は速やかな対応必要とされています。
もし申請者がすでに強制送還手続き(removal proceedings)に付されている場合、移民裁判官の前で 改めてAOS申請を再開・更新することが可能です。
弊所では、戦略的なアドバイスとサポートを提供しておりますので、ご相談はいつでもお気軽にお問い合わせください。
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この記事を書いた人

弁護士
David Sindell
デビッド・シンデル
ニューヨーク州およびニュージャージー州弁護士。東京にて外国法事務弁護士(外弁)として登録し、米国移民法を専門に31年以上の実務経験を有する。これまでに3万件を超える移民関連案件を手がけ、企業・個人を問わず米国での就労・生活を幅広く支援してきた。
現在は東京を拠点に、英語・日本語・フランス語・タイ語を用いたきめ細かなサポートと、執筆・講演活動を通じた情報発信を行っている。