本記事では、ビザ申請者の犯罪歴(特に飲酒運転)を領事官が把握した際に予防的判断によりビザを取消す事例が増加していることについて取り上げます。また、法的枠組み(国務省の指針およびINA 214(b)を含む)を説明し、影響を受ける外国人およびその弁護士のための実務的な対策を解説します。
法的枠組みと国務省ガイダンス
ビザの発給および取消しについては、米国国務省の外国公務マニュアル(FAM)によって規定されています。
米国国務省の外国公務マニュアル(FAM)では義務的な取消し理由と裁量による取消し理由(discretionary bases)の両方が認められています。新たな情報が明らかになり、ビザ資格の欠如の可能性が示された場合や、ビザ発給手続の適正性を守るために取消しが適切と判断される場合は、領事官の裁量による取消しが可能となります。
領事によるビザ取消しの運用と裁量についての詳細なガイダンスは、9 FAM(ビザ発給および取消し)に規定されています。
裁量による予防的判断に基づく取消し
FAMによれば、領事官は以下の場合に予防的判断によりビザを取消すことができます。
- 新しい情報により、ビザ保持者の資格が合理的に疑問視される場合
- 領事業務上の利益やビザ制度の信頼性を守るために必要な場合
この「新しい情報」には、ビザ発給後に入手された逮捕記録や犯罪歴が含まれる場合があります。
行政手続きおよび221(g)について
領事官が以下のような追加確認を必要とする場合、当該事案が221(g)に基づく行政処理に回されることがあります:
- 追加書類の提出
- 医療審査(例:アルコール依存の判定のための医師パネル)
- 関係省庁間の協議
これは、INA 214(b) やその他の上の不許可理由による正式な却下(refusal)とは異なります。
INA 214(b)(移民の意思があると推定される場合)について
INA 214(b)は、すべての非移民ビザ申請者は「移民する意思がある」と推定されています。申請者は、自分が申請している非移民ビザの要件を満たしていることを証明しない限り、この推定を覆すことはできません。
領事官は、申請者が移民意思の推定を十分に覆せてないと判断した場合、214(b)を理由に却下することが一般的です。
214(b)は本来、移民の意思に基づく拒否理由ですが、実務上、包括的な拒否理由としても用いられることがあります。
参照(主要箇所)
U.S. Department of State, Foreign Affairs Manual, 9 FAM 403.11 (U) NIV REVOCATION(9 FAM 403.11-1〜403.11-5を含む。特に9 FAM 403.11-5(B)「Prudential Revocations」、9 FAM 403.11-3(B)「When You May Not Revoke a Visa」参照)
ビザを取消すことができる状況―9 FAM 403.11-3
この規定では、ビザ取消しが正当化される状況が示されています。主な例は次の通りです。
- 新しい情報により法律上の不適格性が判明した場合(例:犯罪歴)
- 詐欺または重要な虚偽申告が判明した場合
- ビザ発給時の行政上の誤りが判明した場合
- パスポートまたは身元に係わる問題が判明した場合
- 国益に資する場合やビザ制度の適切な運用を信頼性を守るために必要な場合
一方、「ビザを取消してはならない場合」に関する指針も含まれており、
- 領事官に権限がない場合
- 他の手段の方が適切な場合
には慎重に判断する必要があるとされています。
しかし、FAMのもとで領事官には広い裁量権が認められているため、運用面では領事館によって異なります。
例えばDUI案件において:
- 医療パネルへの付託
- 改善やリハビリの証拠の考慮
- 医療審査なしで予防的取消しを行う領事館
- 照会なしの裁量による取り消しや214(b)による即時却下
など対応は様々です。
ビザの取消しと米国内の移民ステータスの違い
国務省によるビザ取消しは、あくまでも「ビザ(査証)」にのみ影響します。
つまり:
- 入国審査で入国を求める権利(visa)には影響する
- しかし 米国内での合法滞在ステータスには直接影響しない
理由:
- ビザ取消し → 国務省(DOS)の権限
- 滞在資格の取消し・退去手続 → DHS / 米国移民局 / 移民裁判所の権限
そのため、外国人が有効なI-94 を保持して米国内に滞在している場合は
たとえパスポートのビザが取消されていてもUSCISを通じてステータス維持や延長を行うことは可能です。
ビザ取消しの傾向と現実
飲酒運転・逮捕歴に対する裁量による予防的ビザ取消しの増加
弁護士の間では、特に日本など一部の在外公館で、飲酒運転(DUI )の逮捕歴や有罪判決がある場合、領事官が「予防的(prudential)」判断によってビザを取消したり即時に不許可にする傾向が見られるとの指摘があります。従来はDUI事案を医師パネルに付託して、アルコール依存や乱用の評価を受けさせた上で、その追加資料に基づき審査することが多くありました。しかし現在では、214(b)に基づく拒否や医師パネルへの付託なしに取消しととする事例が散見されます。
214(b) の包括的拒否理由としての使用
本来214(b)は移民意思に関する規定ですが、領事官が申請者の資格や信用性に疑問を持った場合、犯罪歴を確認した後に広い意味での拒否理由として用いることがあります。特に、追加書類や専門家評価を求めず、短時間で拒否決定を出す場合にこの傾向が顕著です。
H‑1B・L‑1ビザとの違い
H‑1B や L‑1 等のような、非移民的意思と移民的意思の両方を持っていても構わないビザカテゴリーでは、通常は非移民的意思の証明を必要としないため、214(b)による裁量的拒否は適用されにくいといえます。H‑1BまたはL‑1 の受益者のビザに問題が生じた場合、基礎となる請願に影響を与える措置が必要であれば、通常は国務省が国土安全保障省や移民局と調整することになります。詐欺やその他の法定上の不適格事由がない限り、DUIのみがH‑1BやL‑1申請の取消し理由となることは通常ありません。
米国外への出国に伴う行政上の手続きと影響
ビザが取消された後に外国人が米国を出国する場合、アメリカへ再入国するには在外公館で新たにビザの申請を行う必要があります。領事官は取消記録や関連する不利な情報にアクセスできます。ビザ取消後、長期間何も対応せず、突然再申請する場合、領事官に否定的に受け取られ、再申請が複雑化する可能性があります。
犯罪歴がある場合の対策
ビザカテゴリーを戦略的に選択する
問題となる犯罪歴がある場合は、非移民的意思の証明に依存しないビザ区分(例: 条件に適合する場合の申請ベースのH-1BやL-1ビザ)を検討してください。これにより214(b)による不許可のリスクは低下します。ただし完全な解決策ではなく、領事官が221(g) による保留や追加調査を行う可能性は残ります。
完全な書類を提出する
犯罪の逮捕歴や有罪判決がある場合は、以下を含む完全で整理された記録を提出する。
- 裁判の判決文書
- 量刑関連の書類
- 警察報告書
- 認証された翻訳
また、更生の証拠も提出することが望ましい。例えば
- 治療プログラム修了証明
- 雇用主からの推薦状
- 地域社会活動の記録
- 人格証明書や紹介状
- 医療評価(アルコール依存の場合は医師パネルの報告書など)
アルコール依存評価への備え
DUI 有罪判決がある場合、医師パネル評価が求められる可能性があります。早期に資格ある医療評価者と連携し、治療や遵守状況を文書化しておくことで、評価結果が出た場合の対応に有利になります。
申請前の確認・説明資料の準備に弁護士を利用する
領事の裁量が大きく即時不許可の傾向があることを踏まえ、米国移民弁護士に犯罪記録を精査してもらい、領事向けの簡潔な法律説明および裏付け資料一式を作成してもらうことを推奨します。必要に応じて当該在外公館に精通した弁護士と連携してください。
タイミングと領事館裁量を考慮する
ビザが取消された場合、直ちに再申請すれば成功するとは限りません。弁護士と協力して包括的な資料を整えた上で申請する方が、面接のみでの申請より好意的に受け取られる場合があります。
H‑1BやL‑1ビザ に影響がおよぶ場合の 米国移民局請願戦略
ビザ保持者の請願(移民局への申請)が危険にさらされている、または米国移民局へ取消し要請が出された場合は、弁護士と協力して米国移民局からの照会に対応し、詐欺等の法定取消事由がないこと、雇用主のスポンサーが継続していること、職務資格が維持されていることなどを示し、請願取消しの法的根拠がないことを証明することが重要です。
まとめ
逮捕歴や有罪判決の情報が判明した場合、領事官にはビザを裁量により予防的に取り消したり拒否したりする広い裁量があります。国務省によるビザ取消しは入国のためのビザに影響を及ぼしますが、当該外国人が米国内に物理的に滞在している間の法的ステータスには影響しません。ステータス変更は国土安全保障省・米国移民局の管轄です。
逮捕・有罪後にビザを再取得するために重要なのは:
- 刑事記録と更生の証拠の慎重な書類化
- 可能であれば適切なビザカテゴリーの戦略的選択
- 経験豊富な移民弁護士の早期関与
- 領事による裁量審査への十分な準備(DUI関連では医療評価の可能性を含む)
特に一部の在外公館ではDUI関連案件を即時拒否する傾向が強まっているため、積極的で十分に文書化された弁護士主導のアプローチがますます重要になっています。
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この記事を書いた人

弁護士
David Sindell
デビッド・シンデル
ニューヨーク州およびニュージャージー州弁護士。東京にて外国法事務弁護士(外弁)として登録し、米国移民法を専門に31年以上の実務経験を有する。これまでに3万件を超える移民関連案件を手がけ、企業・個人を問わず米国での就労・生活を幅広く支援してきた。
現在は東京を拠点に、英語・日本語・フランス語・タイ語を用いたきめ細かなサポートと、執筆・講演活動を通じた情報発信を行っている。