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米国移民局の新指針である「移民裁判所への出頭命令(NTA) の施行」の延期

先日、弊社記事にて紹介した2018年6月28日に米国移民局より発表された裁判所への出頭命令(通称NTA: Notices to Appear)について、その後、その施行の延期が発表されました。この指針は、米国移民局がNTAを発行する対象範囲を広げるというもので、国外退去可能なケースで、詐欺や犯罪行為、又は、ビザ申請などが却下されたにも関わらず米国に違法滞在している証拠がある場合の外国人もNTA発行の対象になる、との内容です。この新指針の施行に向けて米国移民局は30日以内にNTA発行や米国移民関税執行局への委託(通称 RTI:Referral to Immigration and Customs Enforcement) に関する業務について、方針の見直しと政策を行うよう指示を受けていました。

以上、2018年7月30日、NTA発行に関わる新指針に対する対応の遅れにより、米国移民局は前述のNTA発行の施行を延期すると発表しました。

DUIをはじめとする非移民ビザの取り消しについて

1952年に制定された移民国籍法とその改正によると、国務長官は如何なる時でもビザを撤回し、取り消すことのできる権利を保持しています。また国務省(通称 DOS:The State Department)は、飲酒運転及び麻薬の影響下での運転(通称 DUI: Driving Under Influence)においても、その有罪判決の有無に関わらずビザの取り消しを行使しております。なお、国務省はDUIを犯した米国滞在の非移民ビザ保持者のビザ(査証)も取り消す権利も保持しています。

非移民ビザの取り消しの過程について

違反の度合いにより国務省の異なる2つの部署において非移民ビザの取り消し処理が行使されます。

(I) DUIに関しては、アメリカ大使館、領事館が非移民ビザ保持者のビザ査証の失効手続きを行います。

(II) DUI以外については、国務省の本社にある査証審査署(Visa Office of Screening, Analysis and Coordination)が非移民ビザ保持者のビザの失効手続きを行います。

なお、国務省による非移民ビザの失効が正式に有効になるのは、通常は、アメリカ滞在者に対しては、処罰を受けた非移民ビザ保持者が米国を出た後になります。

非移民ビザ失効による影響とは

多くの場合、国務省はビザの失効状を”送付可能な場合”においてのみ発行します。しかし、非移民ビザ失効状を受け取らなくてもビザの失効は有効になります。DUIケースにおいては、通常、アメリカ大使館、領事館がDS‐160フォーム(オンラインのビザ申請書)に記載されているEメールアドレスにビザ失効状を送るため、DS‐160フォーム上の情報が最新かつ有効であり続けていることが大変重要です(場合によっては米国領事館が直接該当者に電話することもあります)。なお、ビザ失効状をEメールで受け取った場合は、失効状の確認のため、関係するアメリカ大使館、領事館に直接問い合わせることも可能です。

ただ注意すべきことは、ビザの失効は処罰を受けた後の最初のアメリカ出国後が絶対ではないということです。ケースによっては、国務省による非移民ビザ失効により、アメリカ国内にて移民局に対して行う就労ビザの雇用者変更申請や延長申請が却下されたケースもあります。更に、場合によっては、非移民ビザの失効により、国外退去の処分を受けたケースもあります。なお、現在、国務省と国土安全保障省(移民局)はこのような例外的なケースを無くし、米国出国後のみビザの失効が有効になるよう、その制限について議論しています。

米国移民局による新方針:質問状発行無しの申請審査について

2018年7月13日、USCIS(米国移民局)は新しい方針を発表しました。この新指針によると、2018年9月11日より、米国移民局の審査官が適切な場合において、最初の申請後に移民局が発行する追加情報や追加資料を要求する質問状 (通称 REF:Request for Evidence)や却下予定通知書(通称 NOID:Notice of Intent to Deny)を発行せずに申請書を却下出来る権限を持つようになります。

この新指針は2013年6月3日に発行された「質問状と却下予定通知の発行命令」(”Request for Evidence and Notices if Intent to Deny”)と矛盾します。というのも、この指針は米国移民局が申請者が追加資料を提出してもその申請が許可されることは”不可能”である場合を除き、追加情報や追加資料を要求する却下予定通知又は質問状を発行すべきであるというもので、この”不可能”という定義により、審査官は質問状や却下予定通知書の発行無しに申請を却下出来る権限を制限されていました。

質問状とは

質問状とは米国移民局が申請者に対して発行する要請書で、提出されている書類の内容では申請を許可するには不十分ではあるものの、許可が下りる見込みがあるケースにおいて、申請者に追加書類・証拠の提出を要求します。

却下予定通知書とは

却下予定通知書とは米国移民局が申請者に対して発行する書類で、申請が却下されることを事前通達するためのものです。ただ、それを覆すだけの追加書類や情報の提出により許可される可能性も残されています。質問状と却下予定通知書の違いは、質問状は申請が許可されるか見通しが立たない場合に発行されるのに対して、却下予定通知書は却下される可能性がある場合に発行されます。なお、質問状には追加で必要とする情報資料が通知書に記載されている一方、却下予定通知書にはケースを却下理由をリスト化するなどして記載されています。

いつ新指針が実施されるのか

2018年9月11日より実施予定。

新指針の対象範囲

新指針の対象範囲は、新指針が実施される2018年9月11日以降に受理される全ての移民局申請が対象となりますが、若年期に入国した不法移民の若者に対して強制退去処分を猶予する米国の移民政策(通称DACA: Deferred Action for Childhood Arrivals) に関連する申請は対象外となります。なお、今回の新指針により、カリフォルニアとニューヨークの司法機関によって発行された差し止め命令には影響がありますがDACA審査に関連する質問状と却下予定通知書の方針や施行には影響しないようです。

質問状と却下予定通知書の発行が無くなることで何が却下されるようになるのか?

以前同様、米国移民局は、法的根拠が無いなど申請が許可されることは”不可能”である場合において、引き続き、質問状や却下予定通知書の発行無しに法定却下の通知を発行する予定です。法的根拠のない申請例は無数に考えられますが、分かりやすい例として、例えば家族を通した永住権申請やハードシップ申請(家族が離れて暮らすことが困難であることを理由に本来は認可できないような履歴(犯罪歴など)を免除要求する申請)など、夫婦や親戚間に対して証拠を示すのですが、そもそもその親戚関係を証明できない、また親戚関係にあってもその親戚関係は申請カテゴリーに存在しない親戚関係であるなどです。

2018年9月11日より施行開始となる新指針により、米国移民局は全権力を行使して、証拠書類の提出が不十分である申請に対しても質問状又は却下予定通知書を発行することなく却下状を発行出来るようになります。例として以下の申請が対象となります。

  • 免除申請(本来はビザの認可の妨げとなるような履歴(犯罪歴など)を免除要求する申請)に対し、十分とは言えない証拠書類しか提出されていない権利放棄の申請
  • 申請時に、規定上、提出すべき書類として求められている法定書類や証拠などの必要書類が提出されていない場合 ( 例: 家族ベースの永住権申請(アメリカ国内での永住権保持者へのステイタス変更申請)で、 ビザスポンサーの財務能力を証明(収入や財産にて証明)する供述書(I-864フォーム)の提出が必要であるにも関わらず、提出されていない場合など)

この新指針で重要なこと

以前の方針では、ケースによっては、米国移民局審査官は最初の質問状への回答を受け、引き続き不足がある状況においては追加で2回目の質問状を発行することもありましたが、この新指針により、1つの質問状にまとめて全ての追加書類および情報を要請することが勧められています。質問状を受けた申請者は要請された全ての書類や情報を返答書類としてまとめて一度に提出しなければなりません。もし一部の書類のみ返答提出された場合は、移民局の申請審査の判断に影響を及ぼし、追加要請した必要書類や情報が提出されなかったことを理由に申請を却下する可能性があるでしょう。

米国移民局のエル・フランシス・シスナ指揮官はこの方針の変更により、軽薄で審査の対象に値しないケースの数を減量し、移民局の業務の効率性を高め、移民法に基づき公正な審査をすることで業務の改善に繋がるであろうと主張しています。

今回の新指針に関して質問がある場合はお気軽に弊社までご連絡下さい。今後も新情報を随時発信していきます。